こんにちは、高橋ソマリ(@somari01)です😊
みなさん、2018年に最も話題になった映画といってもいい「カメラを止めるな!」は観ましたか??
私はSNSで話題になっているのを観て興味を持ってレイトショーでギリギリ観に行けたのですが、それはもう面白かった! これだけ話題になるのも納得のクオリティだったと思います。
この「カメラを止めるな!(通称カメ止め)」の何が凄いって、まずはその爆発的な興行収入です(いきなりお金の話w)
カメ止めは、もともとはアマチュア作品です。ENBUゼミナールという映画監督や俳優の卵が通うワークショップで作られた自主製作映画で、製作費はなんとたった300万円。監督の上田慎一郎さんが必死にかき集めた資金らしいです。
で、そんな300万円で製作されたアマチュア映画がどのくらい興行収入を出したかというと、
興行収入30億円を突破しています!!!!
(2018年11月時点で突破)
この興行収入30億円がどれくらい凄い数字かという話ですが、
まず興行収入30億円を突破できる邦画作品は年間で10本くらいしか出ません。2018年の邦画作品で興収30億円を突破したのは以下の8本だけです。
- 1位「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」92.3億円
- 2位「名探偵コナン ゼロの執行人」91.8億円
- 3位「映画ドラえもん のび太の宝島」53.7億円
- 4位「万引き家族」45.3億円
- 5位「銀魂2 掟は破るためにこそある」36.5億円
- 6位「DESTINY 鎌倉ものがたり」32.1億円
- 7位「カメラを止めるな」31.2億円
- 8位「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」30.9億円
日本映画はビジネス的に言うと「製作費の3倍の興収が出せれば黒字になる」ので、30億円のヒットを目指すような大型映画だと大体製作費10億円レベルで予算が組まれます。製作費10億円を分かりやすい例でいうと「シン・ゴジラ」のクラスですね。
そんな、10億かけて30億を達成できたらいいよねという業界の中で、たった300万円の映画が30億円を達成してしまったわけです。これはもう大ヒットなんて枠を超えて”日本映画界で語り継がれる偉業”と言えます。
さて、前置きはこの辺にして。
これほどの偉業を達成した「カメラを止めるな!」ですが、
- 一体なんでこれほどまでにヒットしたのでしょう?
- 一体なにがそんなに面白かったのでしょう?
この記事では、このあたりのヒットの要因を改めて紐解いて考察してみたいと思います٩( 'ω' )و
私が考えるに、カメ止めのヒットの秘密は3つあると思うんです。
カメ止めヒットの3つ要因
- 万人に感銘を与える秀逸な脚本(プロット構造)
- 製作費300万/無名監督・俳優という作品自体の持つストーリー
- SNSという新たな流行起爆装置
このヒット要因について書いていきますが、基本的にネタバレありなのでまだ観てない人は注意してください!(><)
【ネタバレあり】「カメラを止めるな!」のあらすじをおさらい
(カメラを止めるな予告編)
カメラを止めるな!の秀逸さは、まず脚本の構成(プロット)にあります。
ここを語るにはストーリーの全体像が分かっていないといけないので、観てない人のために、まずはあらすじをざっくりとおさらいしておきますね。
「カメラを止めるな!」のストーリーは、大きく3部構成になっています。
映画の宣伝で使われているログライン(ストーリーを一言で表すキャッチコピーのようなものです)は、
「ゾンビ映画を撮影していたクルー達が本物のゾンビになって襲いかかる」
というものですが、これが実は1部の話にすぎません。ここにカメ止めの「仕掛け」があります。
【第一部あらすじ】ゾンビ映画を撮影していたら、クルーがゾンビになっていくパニック
出典:カメラを止めるな予告編より。ゾンビに襲われる助監督
ある廃墟で、自主映画の撮影クルー達がゾンビものの映画を撮影している場面から映画が始まります。
撮影が休憩に入り、主演の女優と男優ら3人がお喋りをしていると、建物の外から不穏な叫び声がします。3人が何事かと外を見に行くと、助監督がゾンビ化した撮影クルーに首を噛まれてゾンビになっていました。
ゾンビになった助監督やクルーが襲ってきて現場はパニック騒然。3人は逃げ惑います。しかし、やがて1人が噛まれて”感染(ゾンビ化)”し、また1人がゾンビ化し、最後は主演女優の女の子ひとりが拾った手斧を片手に逃げ続けます。
そしてクライマックス。ゾンビ化した男優に追い詰められた女優は、持っていた手斧で男優ゾンビの首を跳ね飛ばして生き残りに成功しました。
……そしてエンドロールが流れ……
「はいカット!」
の声がかかります。
【第二部あらすじ】ゾンビドラマの撮影を依頼された、とある監督の苦労
「1ヶ月前」のテロップが流れ……話は1ヶ月前に遡ります。
とある売れない映像監督のもとにテレビプロデューサーから「ゾンビもののドラマを”ワンカット生放送”で撮ってくれないか?」という依頼が舞い込んできます。
出典:カメラを止めるな予告編より。依頼を受ける主人公の監督
ドラマのタイトルは「ONE CUT OF THE DEAD(ワンカットオブザ・デッド)」。
ワンカット生放送という前代未聞のプロジェクトに戸惑うものの依頼を受ける監督。さっそく手配された俳優達と打ち合わせを進めていくのですが、俳優達がワガママだったり個性的すぎたりと問題児だらけでした。
稽古は毎日毎日トラブル続き……。上(プロデューサー)からの要望と下(俳優達)からの身勝手さに板挟みにされる冴えないドラマ監督の苦労が描かれます。
そんなこんなありながらも、監督は少しずつ問題児だらけの俳優達との輪をまとめていき、ついに生放送の本番の日を迎えます。
【第3部あらすじ】生放送本番の「舞台裏」のトラブル・ドタバタ劇
ついにワンカット生放送の本番が始まろうとするとき、生放送を前にトラブルが続出します。
役者の2人が事故にあって撮影にこれなくなったり、下痢で腹を壊す役者が出てきたり、本番前にアル中になってしまう役者が出てきたり……。
「こんな状況じゃ無理だ!」と本番を目の前に焦りまくる監督やクルー達。とはいえ生放送なので注意しすることもできず、仕方なく奥さんや娘を代役に立て、自分も監督役として出演することになり、ドタバタの中でついに生放送が始まります。
出典:カメラを止めるな予告編より。トラブル続きのまま生放送本番を迎えるクルー達。
案の定、生放送で撮影が始まってからもトラブル続きで、カメラの後ろではスタッフ達がてんやわんやと走り回ります。
そんなこんなでハプニングだらけのドタバタ劇が続きますが、最後はなんとかみんなのチームワークが一つになって無事に「カット」までやり遂げ、「ONE CUT OF THE DEAD(ワンカットオブザ・デッド)」を完成させました。
(あらすじここまで)
「カメラを止めるな!」が大ヒットした3つの要因を考えてみる
さてさて、ざっくりとしたあらすじを把握したところで、改めてカメ止めヒットの3つの要因について考えてみたいと思います💡
カメ止めヒットの3つ要因
- 万人に感銘を与える秀逸な脚本(プロット構造)
- 製作費300万/無名俳優という作品自体の持つストーリー
- SNSという新たな流行起爆装置
【ヒット要因1】誰でも感心しやすいプロット構造の妙
カメ止めの一番の特徴は、「最初はゾンビパニック映画だと思わせておきながら、じつはそれは生放送番組で、その生放送に挑んだ撮影クルーたちの舞台裏のドタバタ劇が本当のストーリー」というプロット(※)の構造にあります。
このプロット構造の仕掛けが素晴らしいところは、万人に「あ、なるほど。そういうことか!」という感心(面白いと思わせるポイント)を”分かりやすく”与えることができた点だと思います。
どんでん返しというのは、ストーリーを最も手軽に盛り上げる王道のワザです。そのどんでん返しは「分かりやすく」「規模(影響度)が大きい」ほど効果が大きいです。
その点で「ゾンビ映画だと思ったら、それ自体が劇中の生放送だった」という返しは、誰にでも非常に分かりやすいですし、それまでゾンビ映画だと思っていた先入観は丸ごとひっくり返ります。
こうしたプロット構造レベルでの仕掛けは、映画マニアからしたらそこまで珍しいわけではないのですが、一般人にしたら分かりやすく「斬新だ!」と思ってくれます。
もちろん、プロットレベルの仕掛けだけでなく、ストーリーの細かい描写も面白いですよ!
カメ止めの面白さを一言で言うなら「生放送の裏で展開するドタバタ劇」になりますが、同じテーマを扱った名作に三谷幸喜の「ラヂオの時間」があります。ラジオの生放送でハプニングが続出して、てんやわんやになりながらも最後はチームが一つになって番組を完成させるというストーリーです。
私も大好きな作品です。絶対に面白いので未見の方はぜひ観てみてください。
カメ止めはラヂオの時間と面白さの種類は同じで、
- ドタバタ劇
- 「生放送」という止まらない列車の中で、ハプニングに次ぐハプニング
- 最初は喧嘩してた問題児だらけのみんなが、最後は「番組を完成させるため」に一丸となって協力しあう
というハズレない要素が詰まっています。ワン・シチュエーションドラマの王道ですよね。
【ヒット要因2】カメ止め作品自体が持つストーリー性・話題性
続いて2つめは、カメ止めという作品自体が背景にもつストーリーです💡
物を売るときって、物自体の品質も大事ですが、それと同等かそれ以上に「物の背景にあるストーリー」が大事です。ただみかんを「みかん」として売るより、「農家歴10年の○○さんが大切に育てたみかんです」として売った方が売れ行きがあがります。
カメ止めが爆発的に大衆へと認知されたのは、この作品自体の背景にストーリーがあったから。
- 自主映画で作られた作品らしい
- 製作費は300万円しかかかってない
- 無名の新人監督と無名の役者のみで作られた映画
- 借金まみれでホームレス寸前だった監督が300万円をかき集めて作った自主映画が、全国の映画館で旋風を巻き起こしている
作品の制作秘話としてこれだけ興味深いストーリーがあれば、誰でも興味持ちますよね( ゚д゚)
今日は「カメラを止めるな!」メンバー大集合でとある収録&とある取材&とある諸々です!! pic.twitter.com/Y1gxAUZ2tN
— 上田慎一郎 (@shin0407) 2018年9月24日
(カメラを止めるなのメンバー。真ん中が上田慎一郎監督)
私なんて「製作費300万円の自主映画が興行収入10億突破した」と言われただけで無条件で見に行きますもん!
誤解を恐れずに言うと、この作品がもしプロが作った普通の邦画だったらこれほど大ヒットしていなかったと思います。この作品の大ヒットには、その背景にある「無名の新人監督や役者たちがなけなしの300万円をかき集めて作った映画」というストーリーが必要不可欠だったはずなんです。
【ヒット要因3】SNSという流行を爆発的に広めるバズ装置
私はカメ止めの大ヒットを見て、「今の時代ならではの現象だなぁ」と感じました💡
興収30億を狙うような映画ならば、通常は公開前からプロモーションに大金をかけます。テレビCMはもちろん、主演俳優はバラエティ番組にも出ずっぱりになって映画を宣伝しますよね。
でも、当然ながら予算300万の自主映画である「カメラを止めるな!」はCMを流すお金なんてありません。
そんなカメ止めがなぜここまで爆発的に広まったかと言うと、SNSによる口コミ拡散です。
公開当初はたった2館での上映でしたが、そこからSNSで口コミに火がつき、半年後には全国340館にまで拡大しました。
なぜここまでカメ止めがSNSでシェアされたのかを考えると、次の2点に尽きるなーと思います。
- シェアしがいのあるキーワード・キーフレーズが多数あった
- 作品スタッフ・関係者がSNS運用を怠らず、口コミの火を絶やさなかった
まず、先に書いたこととかぶりますが、カメ止めって「人に言いたくなる要素(キーワードやフレーズ)」がいっぱいあるんですよね。
- 無名の監督と新人俳優しか出てない映画
- 製作費がたった300万円
- ゾンビ映画に見えて「大きな仕掛け」がある(でもネタバレ厳禁)
- 30分ワンカット
- 低予算なので自分たちでSNS告知したりビラ撒いたりしてる
- なのにめちゃくちゃ人気で興収がついに○億突破中!!
パッと見てもシェアしたいフレーズがこれだけあります。
Twitterなんかでは「カメラを止めるなの予算は、「ハン・ソロ/スターウォーズストーリー(洋画の大作)」の1秒分」という製作費の安さを強調したネタがバズったりと、何かとバズ要素が多いのがSNS拡散に功を奏することになったんだと思います。
またSNS拡散に火がついたタイミングで、監督である上田慎一郎さんの父親のFacebook投稿がバズったのもタイミング的に神がかっていました……(私はこの投稿で初めて知りました)。
『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督の父親のfacebookがいい話すぎるな。
https://t.co/VHpavMUhNe pic.twitter.com/HmSnCGjGcG— 桜野時生 (@TokioSakurano) 2018年8月7日
(以下、一部引用)
お父さんも明日初めて京都の映画館に行く、お前の映画見に行く
お父さんは一度もお前の映画を映画観に見に行ったことはなかったな
小学生のお前を連れてジェラシックパーク見に行ったな
アンパンマンも、その映画達と同じ劇場でお前が創った映画が上映されているなんて
お父さんは今だにピンとこない、
お母さんはカメラを止めるなをもう3回目
「上田慎一郎の親です!って受付で自慢していいか?」ってお母さんに言ったら
そんなこと絶対言わんといて、一番うしろの席で静かに見よ。って言われた
ありがとうな慎一郎
お母さんをよろこばせてくれて
本当にありがとう
もう少しだけでもいい
お母さんのラインを止めるな 慎一郎
一度火がついた口コミの威力って、テレビCMとかの比じゃないと思うんですよね。SNSでバズると集客数は指数関数的に伸びていきます。
なぜなら、ほとんどの人って「面白い作品」ではなく「売れてる作品」を観に行くからです。
マーケティングでよく使われる「キャズムの谷」ってありますよね。
私の持論でしかないですが、真に「面白い作品」に足を運ぶのってアーリーアダプター層までなんです。こういう人たちはいわゆる映画好きで、世間では話題になっていなくても面白そうと自分が感じた作品には積極的に足を運ぶタイプ。
カメ止めで言えば、初期の頃の、まだアマチュア映画界でちょっと話題になってるくらいの時に足を運んだ層であり、内容に感銘を受けて最初にSNSに口コミを書いて火をつけたのがこの人たち。
このアーリーアダプター層までの15%の人が最初にカメ止めを見つけ、SNSに口コミを書いて火をつけます。その火がやがてキャズムの谷を超えて、やがてアーリーマジョリティ層にまで燃え広がるかが勝負です。
アーリーマジョリティ以降85%の”一般大衆”たちは「売れている作品」を観に行くタイプなので、SNSで話題になっていれば「なんかみんなが面白いって言っている」というだけで観に行ってくれるんですよ。
こうして連鎖的にレイトマジョリティ〜の層までみんな観に行くようになり……結果、大ヒットになる。
問題は、口コミの火がキャズムを超えてアーリーアダプター層まで燃え広がるかですが、ここでカメ止めの出演者含め運営チームは火を絶やさぬようSNS運用を怠りませんでした。
出演者各自がアカウントを持って積極的にツイートしたり、反響をリツイートして回ったり。
大手の映画公式アカでは絶対にできない、こうした「無名の素人たちらしい」けなげで一生懸命な草の根運動が、大衆の空気をさらに味方につけ、口コミを世間一般にまで燃え広げることができたんだと思います。
SNSの重要さはこちらにも書きました
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映画好きなら絶対にカメ止めは絶対に観よう!
予算300万円、無名俳優に無名監督だけでも大ヒット映画は作れる。
カメ止めが証明したこの事実は、多くの映画業界志望者にとって希望の光になったのではないでしょうか??
シナリオ一つとっても、この映画から学べることはとても多いです。そこまでキャラが立ってたり台詞に魅力があったりするわけではないと個人的に思いますが、プロット構成の妙だけでも十分に面白い作品は作れるということがわかります。
映画が好きな人たちは、絶対に観ておいた方が良い作品だと思いました☺️
カメ止めが視聴できるVODは?
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